数年前のこと、会社の会議室で僕はただただ立ち竦んでいた。
出席者は10名程。
皆僕と同様に口を噤んでいる。
次の展開を伺っている、そんな雰囲気。
しんとしている中に、聞こえてくる貧乏ゆすりの音。
この状況を作った男のものだ。
彼は、怒って、いや、キレていた。
眉間にしわが寄っているその表情からも、怒りがひしひしと伝わってくる。
どうやら本気のようだ。
少しも笑いは、ない。
「ググれカス!!!」
この状況になったきっかけは、彼の放ったその言葉。
「ググれカス!」が現実世界にやってきた
その言葉は、僕に向けられたものだった。
「ググれカス!!!」と、完全に、怒鳴られた。
もちろん、その言葉の意味は知っていた。
ググレカスであり、
Gugurecusではなく、
ggrks。
「他人に聞く前にググって自分で調べろ、このカスが!!」という意味を凝縮した言葉であろうことは認識していた。
ただただ、呆然とした。
その意味を向けられたことに驚いたということではなく、現実世界で面と向かってネットスラングを口にする人がいることに驚いた。
しかも会議中である。
初めてだったのだ。
後にも先にも、そのとき以外に「ググれカス!」と面と向かって(ネット上でもだが)言われたことはない。
軽いノリなら、ひょっとしたら口にすることもあるのかもしれない。
しかしながら、彼のそれは、大真面目な、感情をどっぷり乗せた言葉だった。
僕の周りで見聞きしないだけで、世間ではよくあることなのだろうか。
「ググれカス!」と言われるまでの経緯
当時、本業では無かったのだが、会社がウェブサイト制作を始め、僕もその制作チームに配属された。
その頃のチームの制作レベルは低く、CSSを手探りしながらなんとかサイトを作っていた状況。
それでもそれぞれのメンバーが努力することで少しずつ技術が向上してきた頃のこと。
ウェブサイト制作を始めて半年ほど経ったある日、彼が会社にやってきたのだ。
彼は名前を聞けば誰でも知っているようなサービスの構築に携わったこともあるプログラマだった。
当然ながら、僕らのレベルには雲泥の差があるのは明白。
会社の人間の知り合いということで入社が決まったのだが、なぜうちの会社に入ったのか誰もが疑問に感じていた。
彼が入ってからと言うもの、制作チームの様相は一変することとなる。
CSSがやっとだった僕らに、とびきりハイレベルなルールが徹底された。
黒い画面を初めて開いたのも彼が入ってから。
横で見張られて「手元見んな!」「首切って詫びろ!」なんて言われながら、手汗ビショビショにしながら過ごす日々。
正しいと思える面もあり、今となっては覚えて良かったことは多々ある。
確かに、ある。
だがしかし、当時は本当にしんどかったのだ。
そんな中での、例の会議。
議題は新しいサイト案件の構築についてのことだったと思う。
システム構築についての話を彼が始めたのだ。
そもそも、彼以外にプログラム言語を触ったことのある人間はいない状態。
今度はプログラムの勉強か、さらに寝る時間減るな、と思っていたところに追い討ちがきた。
「●● Frameworkを採用する」
●●ふれーむわーく?
分かるわけない。今でも思う。当時の僕らに分かるわけがない。
当時の僕らの中で分かる人間がいるはずもなく、会議室に沈黙が訪れた。
彼には、聞かれたことに対して10倍くらいの怒りを足して返答する特性があり、次第に誰も彼に声をかけないようになっていたころだった。
何かを彼に聞くときは、もはや「お伺いを立てる」状態。
「採用する」と言ってから彼は何も言わない。
ほんの一欠けらもわからなかった。
こちとら、「●●ふれーむわーく」がプログラムのためのなにかも、もしくはプログラムに関係ないものなのかも、わからなかったのだ。
説明がなけりゃわからない。
僕は聞いてみることにした。
(今思えば、この時点での最適な発言は「日本語でおk」だっただろうか)
「“●●ふれーむわーく” はどのようなものなのですか?」
その答えが、「ググれカス!!」だった。
若干食い気味だった。
彼は基本的に教えてくれない人だった。
それなのに、基盤は彼のルールだったものだから、その上で野放しにされるので本当にわからないことだらけだった。
「北に行け!」と言われたとしても、自分の居場所も方角もわからない。そもそも方角という概念が正しいのかどうか疑うところから毎度始めるような状態だった。
彼は彼で、僕らの能力をある程度の水準まであげようとしてくれていたのだと思う。
しかし、彼はプログラマとして、うちの会社にとってハイスペックすぎた。
そして、管理者としてはコミュニケーション能力が欠けていたように思う。
苛々するのはまあわかる。ただ、「ググれカス」はなかろうて。
当たり前のように、会社は彼を持て余し、彼は去っていくこととなった。
ネット上での発言が現実世界に漏れた
この「ググれカス!!」事件はいまだに当時その場にいたメンバーとの間で語り草になっている。
今では腹を抱えて笑いながら酒の肴にもできる。
だが、「怖いな」と思う気持ちもあるのだ。
ネット上での発言には尖ったものもよく見られるが、それは顔が見えないからこその発言だと思っていた。
しかし、その発言がもし現実世界に漏れ出したらと考えると、途端に怖くなる。
ポップで笑えるものなら、良いのだけど。
文字として見るだけでも耐えがたい尖った言葉を、面と向かって言われた場合どれだけダメージがあるか。
実際、彼の言葉はどれも攻撃的で、メールなどでやり取りする文面と実際の発言(どれも辛口)に差がほとんどなかった。
それを面と向かって言われ続けるのだ。
スルースキルはどうやっても身につかず、僕はもれなく鬱状態となった。
生身にはダメージが半端ないのである。
まとめ
僕は言わない。
「ググれカス!」とジョークではなく、面と向かって言われたことのある方って結構いるのだろうか。
いるのだったら、怖いなー怖いなー。世の中。
「ググれカス!」と言われて結果的に良かったことは、検索能力が向上したことだろうか。
カスはものすごくググるようになって、周りから「どうやって検索してるの?」とよく聞かれるようになりましたとさ。
『ググるカス』ですね。はい。
コメント
私も面と向かって言われたことがあります。
私は「対面した会話、って”会話するために敢えて聞く。”ような一面もありますから油断して言われてしまいました。
ネット上のコミュニケーションだといま会話しているUIのとなりにググるUIがすぐあるのだからggrksとなるのはなんとなく分かるのですが、
会話ではそんな喧々しなくていいじゃないか、って思ってしまいます。
会議だと同じ言葉での説明を他の出席者と共有する、と側面もありますから、なおさらですよね。
現実世界でその言葉使う人いるんだw
会議で机を叩いて捨て台詞はいて出て行った人はいます。
会議のみんなはアボーンって感じ。
質問されて「ググらせんなカス」と言った事ならあります。俺もよくわかってねーんだよ。
ウェブ制作、システム構築の進行管理をしている者です。
この発言をされた方は、おっしゃるように「管理者」ではありませんね。
あくまでプログラマです。
どのフレームワークを使うのか、当時のメンバーさんでは判断できなかったと思いますので、その方が「採用する」と決めたのは仕方ないかもしれませんが、その説明責任はその方にあります。
それをggrksで片付けるのは管理者として失格です。
メンバー全員のレベルを上げることを目的とされている場合であっても、信頼関係がなければチームは機能しません。
お互いを尊重する気持ちがあってはじめてチームは機能します。
一人の力には限界があるものです。
その方が最終的に会社を去ったのも、やはりその方一人では限界があったからだと思います。
ggrks
と
ggrsks
面白い。
“エース” != “リーダ”
最近、聞かなくなったな。その単語。まだ存在していたのか。俺の学生時代はよく聞いたが。一時期、「Yahooでググれカス」って言うのを耳にしたが「ググれ」ってのは「Google検索しろ」って事だからYahooでググるのは無理なんだよなぁ~(´・ω・`)
いつから「ググる」の意味が「Google検索する」から「検索する」に変わったのだろうか・・・
自分は個人事業やっているのでホームページ製作を依頼した人とラインで言われました。
ラインでの打ち合わせ中に「ペルソナを考えておくと良いです」と言われたので、意味が分からず「ペルソナ」を検索したらアニメだかゲーム(?)のペルソナ情報や写真が沢山出てきて
「これですか?」とスクショしたら、その人に「GGRKS」と言われました。
流石にお金を支払う側(依頼主)の私に対して報酬を貰う側(依頼された者)から、そんな言葉を言われるとは驚きました。
丁寧に「私の勉強不足で申し訳ないです」と謝罪したものの、結局相手から音信普通となり、そのまま自然消滅の打ち切りとなりました。
GGRKSと言われても一応検索して調べたわけですし、ましてやお客様は私ですしね。
そんな相手に対して「GGRKS」とは失礼な人だなぁと・・今でも怒りが込上げますね。
そんな人にホームページ製作させなくて良かったです。今では自分でのびのびホームページを好きなように編集して更新して楽しんでいます。
その時代時代の当たり前に
はるかに及ばない低レベルだということですよ
身の程まきまえればよいのに